●会社法ワンポイントノート:吸収分割と新設分割(その2)
 なんか、えらいこと間が開きましたねえ。(笑)

8:会社を分割する手続き 会社を分割する手続きですが、だいたいは「会社合併」と似たような物です。ただし、会社分割に特有の問題・違いがありますので、そのあたりの「違い」が試験で狙い撃ちされるかも?
 まずはざっくりと、会社を分割する手順を確認しておきます。
手順1:会社分割契約 あるいは 会社分割計画 を作成する  ※ 分割契約あるいは分割計画を備え置いて閲覧に供すること手順2:分割契約 あるいは 分割計画を株主総会で承認する  ※ 分割すること(吸収すること)を株主に通知または公告をして反対株主の株式買取請求権を行使するチャンスを与える  ※ 場合によっては、新株予約権者が新株予約権の買取請求権を行使するかもしれないので、その行使のチャンスを与える手順3:債権者への公告、知れている債権者への通知をする  ※ 分割すること(吸収すること)を債権者に知らせて債権者が異議を述べるチャンスを与える↓★ 手続きが滞りなく完了すれば…  ・吸収分割の場合=分割契約に定めた日に会社分割(と吸収)の効力が発効する  ・新設分割の場合=新設分割会社が成立した日(=ということは、設立の登記がされた日)に効力が発効する
 なお、手順2と3は順序が逆になっても差し支え有りません。先に債権者保護手続きが完了してその後に承認でも差し支えないことになっています。

 まず、会社を分割しよう!という場合は、「分割契約」あるいは「分割計画」を作成しなければなりません。この「分割契約」あるいは「分割計画」の中で、
どの会社を分割するのか会社をどのように分割するのか →分割する会社が持っている、「権利」と「義務」をどう分けて、それぞれ分けた権利や義務を誰が承継するのか?という点をハッキリさせる →分割に当たって「カネ」の問題が絡む場合は、その計算方法等もハッキリしておく・いつ会社を分割するのか分割会社が会社分割に当たって配当をする場合はその内容
 細かい内容は会社法758条、750条、763条、765条にずらーっと書いてあるので、ざっくりと見ておきましょう。
 ところで、「分割契約」あるいは「分割契約」を作成しなければなりません…と、説明しましたが、この「違い」はズバリ、
 相手がある会社分割をするのか、ひとりでする会社分割をするのか
 という点が異なることから生じています。
 1個の会社を2個に分けるとして、その分けた一方を別の会社が吸収するという場合は、「相手がある会社分割」ということになります。この場合は「我が社」と「相手方」との間でどうやって会社を分割してどう承継するのかについてお互いに合意しておく必要がありますから、「分割契約」を結ぶことになります。つまり、「吸収分割」の時には「分割契約」だということになります。
 例えば、「鉄道部門」と「デパート部門」を有するA電鉄株式会社が、「鉄道部門」と「デパート部門」とを分割し、そのうちの「デパート部門」についてはX百貨店株式会社に吸収してもらうというケースでは、A電鉄株式会社とX百貨店株式会社との間で「分割契約」を結ぶこととなります。
 一方、1個の会社を2個に分けて、その分けた双方の会社が存続するという場合は「ひとりでする会社分割」ということになります。この時には特に相手方はいません。ということは別に他の誰かと契約をしなければならないという訳でも有りませんから、「分割計画」を作成することとなります。つまり、「新設分割」の時には「分割計画」だということになります。
 例えば、上記のA電鉄株式会社について「鉄道部門」と「デパート部門」とを分割し、「鉄道部門」はそのままA電鉄株式会社として存続し、「デパート部門」を新たにAデパート株式会社として設立するというような場合です。分割契約を作成する時点ではまだ「Aデパート株式会社」は存在しません。つまりA電鉄株式会社は「自分の会社をどうやって分割するのか、自分で決めれば良い」ということになるのです。
 まずこの点からして、「合併」と異なるポイントとなります。 「合併」の場合には、必ず相手があるので、「合併契約」を結ぶ必要がありました。「ひとりでする合併」なんて物は存在しません。吸収合併にしても新設合併にしても、必ず「他の誰かとくっつく」ことになるので、必ず「合併契約」を結ぶということになっていました。
 分割契約 あるいは 分割計画は、株主総会で承認してもらう必要があります。
(吸収合併契約等の承認等)第七百八十三条  消滅株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。
(※ 吸収分割会社も上記条文が適用となります)
(新設合併契約等の承認)第八百四条  消滅株式会社等は、株主総会の決議によって、新設合併契約等の承認を受けなければならない。
(※ 新設分割の場合も上記条文が適用となります)
 さて問題です。この株主総会の決議は「普通決議」でしょうか?それとも「特別決議」でしょうか?
 答えはもうお馴染みの(?)309条2項にあります。見ておきましょう。
(株主総会の決議)第三百九条  株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。  前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。(略)十二  第五編の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
 783条や804条は「第5編」にあります。そして第5編の規定はもう全部「特別決議」ということになっています。会社を分割するという重大な事を決める訳ですから、当然といえば当然ですね!

9:会社を分割するときの株主総会 さて。ここら辺から段々と「いやらしい」お話になってきます。 会社を分割する時の株主総会について、超基本的な形態を確認しておきます。
その1:吸収分割の場合…「会社分割契約」を、○吸収分割会社(会社を「分ける」側) → 特別決議○吸収分割承継会社(分けた会社を吸収する側) → 特別決議
その2:新設分割の場合…「会社分割計画」を、○新設分割会社 → 特別決議
 と、言うことになっています。特に何も難しい話はありません。 ところが、ここに「例外」が潜んでいます。
例外その1:略式分割ができる場合 → 承認決議は必要無い まず、「吸収分割会社」が「吸収分割承継会社」の特別支配会社である場合と、その逆、「吸収分割承継会社」が「吸収分割会社」の特別支配会社である場合は、【支配されている方】の会社で承認決議をする必要がありません。
 特別支配会社とは、株式の議決権の90%以上を握っているケースなので、「議決権の90%が賛成」ということになることは誰の目にも明らかです。だから承認決議をやるだけムダだ!という事になるのです。よって、そのような場合は承認決議をする必要がありません。
 なお、「新設分割」の場合はこの例外は当てはまりません。「相手のある分割」で、なおかつ「相手は自分のことを支配している」状態なら、「会社分割には必ず賛成する」ことは目に見えています。ところが、新設合併には「相手がいない」ので、自分が他の会社に「支配されている」状態であったとしても、株主の意向をお伺いしておく必要があるわけです。だから、新設分割の場合はこの例外は適用されません。
例外その2:簡易分割ができる場合 → 承認決議は必要無い 次に、分割の規模が小さいケースでも、承認決議は省略できてしまいます。
 例えば、A株式会社を分割します。この時、
○A株式会社の本業(80%)○A株式会社の副業(20%)
 という分割をする場合、A株式会社での承認決議は不要となります。分割する規模が小さいので、そんな神経質にならんでも良いでしょう…ということなのです。 これは、吸収分割でも新設分割でも一緒です。
 また、吸収分割の場合は吸収する側の承認決議も吸収する「規模」が小さければ省略できる可能性があります。A株式会社の副業をB株式会社が承継する場合に、B株式会社がA株式会社に交付する財産が、B株式会社の純資産に対して1/5を越えない場合は、B株式会社でも承認決議を省略することができます。 これは、B株式会社が交付する財産等の規模によって変わりますので、例えば
○A株式会社ののこりかす(1%)○A株式会社の美味しいところ(99%) → これをB株式会社が吸収する
●B株式会社の規模(とても大きい) ※ A株式会社ののこりかすに交付する財産=B株式会社の資産の20%
 ということであれば、○A株式会社では株主総会の承認決議が必要B株式会社では株主総会の承認決議は不要
 ということになります。(もし、B株式会社がA株式会社の株式の90%以上を握っているなら、A株式会社でも承認決議は不要ということになりますね。)
 ちなみに、会社合併では、合併の結果消滅してしまう会社では、略式合併の場合は承認決議は省略できましたが、簡易合併としての承認決議は省略できませんでした。会社が無くなってしまうから!) でも、会社分割の場合は分割会社も承継会社もどちらも簡易合併をすることが出来るという点に違いがありますので注意してください。(何度も繰り返しましたが、会社分割では会社が消滅しないから!!

10:反対株主の株式買取請求権 会社分割の場合も、分割する側(相手がいる・いない双方)・吸収する側のいずれでも、会社分割(や吸収)に反対する株主は、会社に対して「俺様の株式を適正な価格で買い取れ!」と請求することができます
 ところが、ここに例外が存在します。ちなみに、この例外が存在する理由も、「会社が消滅する訳じゃないから!!」という点にポイントがあったりします。(笑)
 まず、会社を「分ける」側の事情から見ておきます。(吸収分割も新設分割も) 簡易分割が出来るケースでは、株主は会社分割に反対であっても、株式買取請求権を行使することができません 会社を「分ける」側が簡易分割をすると言うことは、「分割する部分」がとても小さいということを表しています。このようなケースでは分割したところでたいした影響も無いんだからゴチャゴチャ文句を言うな!ということを言っているのです。
 次に、「分けた」会社を吸収する側の事情も見ておきます。(吸収分割承継会社) こちらは、簡易分割が出来るケースでも、株主は吸収分割に反対の場合には株式の買取請求権を行使することができます 例え、吸収分割会社(会社を「分ける」側)への対価がゼロだったとしても、反対株主の株式買取請求権を行使できてしまいます。
 えっ!?タダなら別にいいじゃんか!!!
 …と、思いますか?これには実は重大な理由があるのです。それは、この条文を見れば明らかなのです。
(株式会社に権利義務を承継させる吸収分割の効力の発生等)第七百五十九条  吸収分割承継株式会社は、効力発生日に、吸収分割契約の定めに従い、吸収分割会社の権利義務を承継する。
 吸収分割承継会社は、効力発生日に、吸収分割会社の権利義務を承継するとはっきりと書いてあります。そうです。「義務」を承継するのです。たとえタダで会社の切れっ端を貰ったとしても、そこにはとんでもない義務が付着している可能性だってある訳です。(「タダより高い物は無い」なんて言葉もありますね!!) 会社を「分ける」側は、権利も失うでしょうが義務からも解放される訳です。だから株主や会社にとってメリットとして見ることも出来る訳ですが、「義務」を承継する側としてはそうはいきません。だから、吸収分割承継会社の株主としては、
 そんなものタダでも要らないよ!!
 という判断があり得ることとなります。このために簡易分割であったとしても、株主には会社と縁を切るチャンスが必要なのですね。
 なお、反対株主の株式買取請求権については別のノートにがっつりと記載していますのでそちらを参照してください。
●会社法ワンポイントノート:反対株主の株式買取請求権http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n231477

11:債権者保護手続き 会社を分割する場合も、会社の債権者に対する保護手続きが必要です。 大体のことはすでに「会社法ワンポイントノート:吸収分割・新設分割(その1)」に書きましたので省略しますが、会社を「分ける」側(新設分割会社・吸収分割会社)については、「債務者が変わってしまう」債権者だけが異議を述べる機会を与えられます。債務者が変わらない債権者には異議を述べるチャンスは与えられません。
 一方で、吸収分割承継会社の債権者には、株主と同じように
 そんなものタダでも要らないよ!!
 という事がありうるため、債権者には異議を述べる機会が与えられます。
 なお、債権者保護手続きについて、その内容は株式合併等と全く同一です。詳細については「会社法ワンポイントノート:債権者保護手続き」を参照してください。
●会社法ワンポイントノート:債権者保護手続きhttp://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n175736


12:会社の分割と配当 会社合併と異なり、会社分割の場合、「分割の対価」を受け取るのはあくまでも【分割会社】です。基本的には株主は会社分割で何ももらう事はありません。
 ところが、実際には会社を分割すれば分割した分だけ会社は小さくなってしまいます。会社が小さくなってしまうということは、それだけ株主が持っている株式の価値が小さくなることを意味しています。株主にしてみたら面白く無いに違いありません。 そこで、会社法では、会社分割に際して、分割会社が受け取った対価を株主に分け与えても良いという規定を置きました。
 分割会社は、分割承継会社や新設分割会社から受け取った財産のうち、「株式」についてはそのまま株主に配当したり、または自社の株式を取得してその対価として交付する事ができます。
 もうちょっと具体的な例えで紹介します。
 まず、A株式会社が会社を分割するとします。
A株式会社の本業(60%)A株式会社の副業(40%)
 そして、A株式会社の副業をB株式会社が吸収します。すると、A株式会社の全体の資産は元々の資産の60%になってしまいます。その分、株主の資産が小さくなってしまいました。 そこで、この減少した40%分の資産を補填することを考えたとき、一番簡単で手っ取り早いのは、「B株式会社が自分の会社の株式をA株式会社に交付する」ことです。(現金でも良いでしょうが…) すると、A株式会社の資産はこうなります。
A株式会社の本業(60%)B株式会社の株式(40%相当)
 A株式会社がこのままB株式会社の株式を持ち続けても構いません。全体でA株式会社分割前の資産規模になるのであれば、結果的にA株式会社の株主の資産も減っていないからです。 しかし、A株式会社として「本業に専念する」のであれば、B株式会社の株式を保有し続けることにあまり意味はありません。むしろ「税金ガー」という話の方が面倒臭くなることになるかもしれません。 そこで、A株式会社はB株式会社から貰った「B株式会社の株式」を株主に「配当」してしまうことが出来ます。
A株式会社の本業(60%)株主が美味しくいただきました(40%相当)
 ということになるので、A株式会社は元々の60%の規模になってしまいましたが、株主はその分B株式会社の株式という配当をもらったので、結果的に損はしていません。めでたしめでたし。
 …じゃないんです。
●会社法ワンポイントノート:剰余金の配当http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n232918
 株主に剰余金を配当するという場合、その配当は「会社として余っている財産」しか配当することができませんし、会社の純資産が300万円を下回っている場合も配当をすることができませんでした。これは全て、会社の資本を充実させ、債権者の利益を害しないようにするための規定でした。 ところが、会社を分割する場合に配当をするケースでは、こうした規制が大々的に免除されるようになっています。
(剰余金の配当等に関する特則)第七百九十二条  第四百五十八条及び第二編第五章第六節の規定は、次に掲げる行為については、適用しない。  第七百五十八条第八号イ又は第七百六十条第七号イの株式の取得  第七百五十八条第八号ロ又は第七百六十条第七号ロの剰余金の配当
 A株式会社が会社を分割するに当たって株主に交付する財産(剰余金)が、全て「B株式会社から貰った物」だけである場合(貰った物を右から左へ流すだけ)は、A株式会社の本来の資産(60%の方)に傷を付けることがありません。このため、剰余金の配当に関する規定をバッサリ無視したところでA株式会社は痛くもかゆくも無いし、A株式会社の債権者の利益を害することもまず無いからなのです。